2、ウィザの場合

ウィザは、クッキーの山を前に1人悩んでいた。
「どうしよう…」
まさか1人で食べられるはずもないしなあ。
などと頭を捻らせていると、玄関の方でトントンと扉を叩く音がした。どうやらお客のようだ。
「はいはい、ちょっと待ってて下さい」
ばたばたと玄関まで駆けて行く。
扉を開けた向こうにいたのは、19歳になってから生やし始めた髭が随分と様になった父親と年の離れた弟だった。
「ウィザおにーさん、こんにちはっ」
弟のユナンが片手を挙げた後、ぺこっと頭を下げる。相変わらず可愛いな、とウィザは思った。
「お父さんもユナンも、急にどうしたの?」
「実はな、ユナンがどーしても遊びに行きたい、って聞かないんだ。
だから遊びに来たぞっ」
父ルヴィースはそう言うと、にこにこと笑った。
「そうなんだ。丁度良かった」
「ん? 丁度いい?」
「実はお菓子を作りすぎちゃって。食べてくれると嬉しいんだけどなぁ」
「じゃ、ちょっと食っていこーかな」
「良かった。さ、上がって上がって」
ウィザは2人を中へと促した。

ウィザはおとなしく、穏やかな性格で、小さい頃も、外で遊ぶよりも家で母親の手伝いをしているほうが好きだった。
そうこうしている内に、料理を趣味としてやるようになり、その腕前は母親のルシマ譲りだ。
今でこそ、身長も伸びてきて父親と似た部分もあるのだが、もっと幼い頃は、仕草やら雰囲気やら、また、しっかりしているように見えてどこか抜けてるというところや、足元がふらふらしていてよく転ぶ、という変なところまでも母親にそっくり、ルシマがもし男だったならばこんなふうなんだろうな、とよく言われていたものだ。

「うん、うまいっ!」
クッキーを口にしたルヴィースは、目を輝かせながらそう言った。
隣に座っているユナンは夢中でクッキーを頬張っている。
「そうかな? 良かった」
「ルシマとロレイにも食わしてやりたいなぁ、ちょっと包んでくれるか」
「うん、いいよ。こんなので良かったらいつでもおすそわけに行くよ」
そう言いながら、ウィザは包んだクッキーを父親に渡した。
「今度はルシマとロレイも連れて、遊びに来るなっ」
「うん、いつでもどうぞ」
「おにーさん、クッキーありがとー。ご馳走様でしたっ」
最初に来た時と同じ仕草でユナンはぺこりとお辞儀をした。
ウィザは2人を見送ると、まだ家を出る前のことを思い出していた。
「7人という大家族で騒がしかったけど、楽しかったな」
これから、新しく作る家庭もそうなってほしいとウィザは願った。

次の日、再び父親と弟ユナンがやってきた。
「ん、だって、いつでも遊びに来ていいって言ったじゃないか」
「いや、確かに言ったけど…それは言葉の綾というか社交辞令というか…」
そりゃ、全く来てくれないよりは来てくれた方が楽しいけど、昨日の今日って…。
「まぁまぁ、細かいことは気にするなって」
「お邪魔しまーすっ」
「ああ、一応新婚家庭なのに…」
2人は、それから暫く毎日のようにウィザの家を訪問し続けたという。

ああ、そうだ。こういう父親だったんだ…。
言葉に気をつけなきゃいけなかった、とお茶を煎れながらちょっぴり後悔しているウィザだった。

レイド編に続く

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