■第六話『時の流れは瞬く間に』

ファレーネ
「もうヒスイも成人かあ。本当にあっという間だったわねえ、アムラーム」
アムラーム
「本当だね。なんだか、もういろいろと疲れてしまったから、早くヤナギも成人してほしいよ…」
ファレーネ
「あはは、もうさすがに無理はいわないから、安心してちょうだい」
アムラーム
「えー…、なんだか疑わしいなあ」
ファレーネ
「…ちょっと、それ、どういう意味? 信用してないっていうの?」
アムラーム
「い、いや。そういうわけじゃ…(というか、今までが今までだぞ。いきなり信用しろっていうほうが無理)」
ファレーネ
「ほら、だって、私達ももう25を過ぎたのよ。子供たちのことよりもこれから老後の生活をどんなふうに送っていくかっていうかのほうが大事じゃない」
アムラーム
「…驚いた。ファレーネ、ソラの成人前に戻った?」
ファレーネ
「それも失礼な言い方ね。ま、でも。私、というよりも、プレーヤーがそろそろ安定してきたんじゃないの?」



ジェイド
「ただいまー。ああ、式中は緊張しっぱなしで、疲れたよ」
ウィロー
「これでようやくおれ達の差別化が成ったな。まあ、一年後には再び同じ顔になるけどな」
ジェイド
「お前ね、迎えの第一声がそれか。お祝いの言葉の一言でもくれたら、可愛げもあるのに」
ウィロー
「どうしてもと頭下げて頼むのなら、言ってやるが?」
ジェイド
「(こいつは…)…言わなくてもいい」
ウィロー
「だろうな」
ジェイド
「…」
ウィロー
「なんだ?」
ジェイド
「別に。…あ、そうそう、今日はぼくの成人祝いに兄さん達が家にくるんだって」
ウィロー
「ふうん。…って、何だと!?」
ジェイド
「さっき、コハク兄さんに会ったよ。凄く機嫌が良かったみたいだったけど」
ウィロー
「マジかよ…。ここ数年は、さすがに、子育てで忙しいらしいから来ないだろうって安心してたのに」
アンバー
「邪魔するぜー。よぉ、久しぶりだなあ、ヤナギ?(にやにや)」
ウィロー
「げっ!」
ジェイド
「あ、コハク兄さん。いらっしゃい。早かったね」
アンバー
「たまには年の離れた弟達にサービスしとけって、グリージャに言われたんだよ。サルファ兄貴もそろそろ来るはずだぜ。ほら、これ、グリージャと俺からの成人祝いってほどのもんでもないが。ま、プレゼントだ。後で食っとけ」
ジェイド
「うわあ、ありがと、兄さん。いったい何だろ?」
アンバー
「ジャムクッキー。グリージャ手製だ。好物だったろ?」
ジェイド
「そっか、グリージャさんの…。ああ、どうしよう。凄く嬉しいなあ。後でグリージャさんにもお礼を言っておいてね」
アンバー
「お前はどこかの誰かさんと違って、素直なとこがいいな。お兄さん、思わずなでなでしたくなっちゃう」
ジェイド
「わっ、ちょっとちょっと! ソラ兄さんみたいなことをしないでよ!」
アンバー
「…で、さっきの「げっ」というのは何だ、ヤナギ、んん〜?」
ウィロー
「そのままだよ。バカ兄貴。あんたの後始末が一番大変だってこと分かっているのか。もう二度と家に来ないでほしいんだが」
アンバー
「ふ、何言ってやがる。このガキが。ここはお前の家じゃねえだろが。どこにそんなこと言う権利があると?」
ウィロー
「誰がガキだ!」
アンバー
「お前だよ、お前。本当にいやあねえ、自覚がないところが子供だってこと、分からないのかしら〜?」
ウィロー
「…ぐぐ」
アンバー
「ふ、悔しかったら、身長だけでも追い越してみろっつの。ま、顔はお袋似でも背丈は親父似のお前じゃあ、無理ってもんだろうけどなあ(にやにや)」
ウィロー
「…(無言で睨む)」
ジェイド
「あわわわわ…」
サルファー
「はいはい、二人ともそこまでにしときなよ。一番困るのはヒスイなんだから、これ以上は駄目」
ジェイド
「サルファ兄さん…」
サルファー
「やあ、勝手にお邪魔してすまないね。成人おめでとう、ヒスイ」
ジェイド
「あ、うん、ありがとう」
アンバー
「あはは、大人気ないのは分かってんだけどなー。つい絡みたくなるんだよな。ある意味では俺はこいつが一番可愛いもんで」
ウィロー
「…」
アンバー
「ばーか、顔赤くして睨んでも、ちっとも怖くねーよ、チビ助」



ウォルナット
「成人おめでとう、ヒスイ」
ジェイド
「ありがと、クルミ兄さん」
アズール
「ヒスイ、おめでとう。あ〜あ、ちょっと前まであんなに小さかったのに、もう成人かあ。月日が流れるのは早いもんだね」
ジェイド
「そう? ぼくはやっと成人、って感じなんだけど」
アズール
「お前はまだ若いから、おれ達とは時間の流れ方が違うんだろね。…よし、ここは一つ、祝いの踊りでも…」
ウィロー
「踊るな。唄うな。むしろ騒ぐな。今日は酒類は一切出さん」
アズール
「えええ!? ちょっと待てよ。それはないだろー!?」
ウィロー
「文句は却下する。これまで貴様達が何をしてきたかじっくり考えたなら、こういう結果になるのは想像に易かったはずだ。何か言うなら帰れ。そして、もう二度とこの家の門を跨ぐな」
アズール
「(ぼそぼそ)ねえ、なんかヤナギが、いつにも増して機嫌悪そうなんだけどさ」
サルファー
「(ぼそぼそ)兄さんとソラが来る前にコハクとちょっとあったからね」
ウォルナット
「またか。お前も、いい加減懲りない奴だな」
アンバー
「いやいや、それがね。ちっちゃくて可愛い弟なんで、つい構いたくなるわけですよ、分かるかなあ、この気持ち。ところでさ、ウォルナット兄貴、双子の子供達4人を置いてきて平気なのかよ。キーコちゃん一人じゃさすがに大変なんじゃねーの?」
ウォルナット
「ああ、勿論だ。だから、俺は途中で帰らせてもらうよ。ま、上の二人が入学する年齢だし、随分楽になったけれどな」
アズール
「すげーよなあ。双子二組。実はすごいやり手だったんだな、ウォル兄」
ウォルナット
「偶然に偶然が重なっただけだ…」
アズール
「またまた〜」
ウォルナット
「確かに可愛いことは可愛いとは思う。だが、お前達が思うほど良いものじゃないぞ。ただでさえ年子だしな。もっと小さい頃なんて、危なっかしくて目を離せたもんじゃなかった。…とはいっても、お前達の時よりは随分マシだったようには思うが」
サルファー
「兄さんもだてに僕達の兄というわけじゃないってことだね」
ウォルナット
「だてに、とか言うな」
アンバー
「双子といえば、マラビーヤさんのとこもそうじゃなかったっけ?」
サルファー
「ああ、兄さんのところの男女とは違って、双子の息子君達だろう? どんな子供達になるんだろうね。お母さんに似ていたら、凄く腕白だろうな」
アズール
「マラビーヤさんの奥さんねえ…。おれは、あんの超絶きっつい子が、あのマラビーヤさんと!?って感じだったよ…。マラビーヤさん、どこが良かったんだろ…。いくら美人でも、あそこまで性格きついとおれはゴメンだな」
ウォルナット
「そう言うもんじゃない。人の好みはそれぞれだろ。それに彼女も悪い子じゃないしな」
ジェイド
「…ねえねえ、兄さん達の子供の頃って、そんなに凄かったの?」
ウォルナット
「ん? ああ、凄かったぞ、特にコハクとソラがな。喧嘩の数もそうだったし、部屋の散らかしようも半端じゃなかった。ま、俺もその昔は人のことは言えなかったみたいだが」
ジェイド
「へえ。なんか想像つかないや。みんなして僕のこと可愛がってくれていたし、仲もいいから」
ウィロー
「つかない? 何言ってる。そんなもの容易に想像がつくだろ」
ジェイド
「そうかなあ?」
アンバー
「兄弟は喧嘩したりしてなんぼなんだよ」
ウィロー
「人に迷惑かける喧嘩をしても良いとは思わんがな」
アンバー
「お前だって、昔はヒスイと喧嘩してたんだろうが。今はヒスイのほうがお前の態度に諦めたから、やらなくなっただけだろうよ。ヒスイがすぐ上の兄で、ありがたーく思うんだなあ。俺がまだ家にいたら、ぎっちょんぎっちょんに打ちのめしてやったってのに。あーあ」
ウィロー
「打ちのめされたのは一体どっちだか」
アンバー
「何を抜かしてやがる、俺に勝てるとでも?」
ウィロー
「若さでは断然勝ちだ。体力が全く違う、年を考えろ。オッサン」
アンバー
「ふっ、バカめ。それ以前に、ほら。リーチが全く違うだろうが、リーチが」
ウィロー
「…(こめかみをぴくぴくとさせている)」
ジェイド
「あわわわわわ…」
サルファー
「コハク、だから、いい加減にしておきなって…」
アンバー
「チビ助がかっこつけてるんじゃねーっつの」
ウィロー
「貴様ら、出て行け。とっとと出て行け。今すぐ出て行け。そして、二度とここに来るな!!」



アムラーム
「…ナニゴト?」
ファレーネ
「…あんた達、どうして玄関先に」
アンバー
「あっはっはっ。ほら、まあ、いろいろありましてねえ、奥さん。とりあえず、中にいるヤナギ君を説得してやってくれませんかね?」
サルファー
「だから、僕はこれ以上煽るな、と言っただろうに」
アズール
「いいかげん腹減ったよ、おれ」
ジェイド
「うう、どうしてぼくまで…。ぼくの成人のお祝いのはずだったのに。だったのに〜…(しくしく)」

久しぶりにアンバーの出番が多かったですな。からかっても構わないけど、調子に乗るのはほどほどに(笑)。
ちなみに、ジェイドが怒ることがあるのは、食べ物に関する時だけです。それ以外の時はウィローのほうが圧倒的に強いです。今となっては、兄貴と呼ばずに「ヒスイ」と呼び捨てていそう(笑)。

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