■第七話『父子の語らい』

あれから瞬く間に更に一年が経ち、ウィローも成人しました。

ウィロー
「またヒスイと同じ顔に逆戻りというわけだ、ふう(ため息)。折角差別化が図れたと思ったのにな」
ジェイド
「…」

そして、その日の昼間、アムラームが珍しくジェイドの部屋を訊ねました。

アムラーム
「あー、ヒスイ、ちょっといいかな?」
ジェイド
「… …ん、何、父さん。何か用事?」
アムラーム
「あー…、その、だな」
ジェイド
「?」
アムラーム
「ええっと、…キャッチボールでもしないか?」
ジェイド
「… …は?」
アムラーム
「あの、だから、その…、キャッチボールをしないか、と(ごにょごにょ)」
ジェイド
「と、突然、どうしたの?」
アムラーム
「だって、ほら、なんだ…。息子とキャッチボールをしながら夢を語る、というのは父親が一度は夢見るシチュエーションじゃないか」
ジェイド
「そ、そうなの?」
アムラーム
「そ、そういうものなんだ! ぼ、僕の父もそうだったらしいし…」
ジェイド
(父さんの父さんって…。あ、あの旧姓セレイゾーの故ハリス祖父さんじゃないか。それって有り得ないと思うんだけど…。汗)
アムラーム
「とにかく、そういう夢を持ってたんだ。でも…」
ジェイド
「でも?」
アムラーム
「これまでファレーネに振り回されて、そんな時間なんて到底持てなかったし、それに、お前より上の息子達やヤナギは何かとアクが強くてだなあ…。言い出せなかった、というか。クルミにはバカにされそうだし、サルファーは何を考えているかよく分からないから怖いし、コハクはきっと誰にも取れないような豪速球を投げてきそうだし、ソラはとんでもない方向にボールを飛ばしそうだし、ヤナギもクルミに輪をかけてバカにされそうで…」
ジェイド
「… …父さんもさ、何かと苦労してるよね。同情するよ…」
アムラーム
「ははは…(乾いた笑い)」
ジェイド
「…うん、ぼくも気晴らしをしたかったし、丁度いいや。じゃ、早く行こうよ」



アムラーム
「なあ、ヒスイ…(ボールを投げる)」
ジェイド
「ん…?(ボールを受け取って投げ返す)」
アムラーム
「昨年末に失恋したと聞いたぞ。大丈夫なのか?(以下続く)」
ジェイド
「うわっ、父さんも知ってるんだ。一体誰から聞いたの? …って、想像つくけどさ」
アムラーム
「ファレーネは、息子達の恋路を覗くのがどうにも好きなようでな。上4人の時も相当なもんだった。お前も覚悟しておいたほうがいい」
ジェイド
「そ、そうなんだ…」
アムラーム
「で、大丈夫なのか?」
ジェイド
「ん、平気とまではいかないけど、気持ちの整理は随分ついたかな。付き合って間もない頃だったこともあって、もう少しすれば、多分ね」
アムラーム
「そうか。失恋には、古今東西、時間の経過か、新しい恋を知るということが一番の特効薬らしいからな。早く新しい恋でも見つけろ」
ジェイド
「うん、そうだよね…。まだ割り切ることはできないけど。…でもさ、母さんの、その人の恋愛のごたごたを知りたがるっていうのがよく分からないなあ。そんなの楽しいものなの?」
アムラーム
「はは、まあ、許してやれ。この年になると自分のことよりも、子供達がどんな恋をして、どんな娘と結婚して、どんな人生を歩んでいくのか、ということが楽しみになるのは事実だ」
ジェイド
「別に手を出したり口を出されたりするわけじゃないから、それはいいんだけど。ぼくにはよく分からないや」
アムラーム
「すまんな、ヒスイ」
ジェイド
「ん? どういう意味で謝ってるの? 母さんのこと?」
アムラーム
「まあ、それもあるが、とりあえずはこんな老いた父親ですまんな、と思ってな」
ジェイド
「何言ってるの。そんなの、ぼくはちっとも気にしていないよ」
アムラーム
「だって、お前達の同級生の父母は皆、むしろお前の兄達の世代で若かっただろう? そのせいで、その…、いろいろとからかわれたりしたんじゃないのか?」
ジェイド
「人のところは人のところ。自分のところは自分のところだよ。ほら、ヤナギの一つ下の子の両親に、父さん達よりももっと上をいく人達もいたみたいだしね。それに、父さん達は実年齢はともかく、中身なんて十分若いと思うんだけどな」
アムラーム
「はは、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ジェイド
「確かに言われたことがあるのは否定しない。でも、ぼくもヤナギもそんなことを言われたら、すぐに言い返してやった。だから、どうしたってね」
アムラーム
「ヤナギもか? ちょっと意外だ」
ジェイド
「ヤナギは普段はあんなふうだけど、実際には父さんや母さんのことを、とても好いていると思うよ」
アムラーム
「なるほど、確かにあの子はそういう子かもしれないな」
ジェイド
「父さん。ぼくの夢は、父さんみたいになることだ」
アムラーム
「ん? ああ、そういえば、まだ幼い頃にそんなことを言ってくれたことがあったか」
ジェイド
「今でも変わってないよ。そうだ、今度、ジマ杯に出るんでしょ?」
アムラーム
「ああ」
ジェイド
「だったら、ぼくに改めて目標を示してくれないかな。ぼくが、その背中を追いかけたくなるような、そんな人になってほしい」
アムラーム
「ヒスイ…」
ジェイド
「兄さん達も、ずっと父さんの背中を見て育ったんでしょ? 見てないようでちゃんと見てると思うよ。それにね、父さんも、ぼく達のことだけじゃなくて、まだ自分の夢を見られるって。目標なんて、それこそいつだって、いくつだって見つけられるものじゃないのかなあ」
アムラーム
「…ふ、まさかお前にそんなふうに言われるとは思わなかったな」
ジェイド
「ははっ」
アムラーム
「分かった。いい試合を見せてやろうじゃないか」
ジェイド
「そうそう。その意気だよ、父さん。…うわっ、ちょっと父さん、今の球は強すぎだよ!」
アムラーム
「お前も、お前のペースで人生を歩め。根っこがしっかりしてれば、決して流されることはない。おっ、今のはいい球だったな」
ジェイド
「うん」
アムラーム
「… … …いいか。僕みたいに振り回されるだけには絶対になるな(遠い目)」
ジェイド
「… … …言い方に妙に説得力があるというか。父さんの人生の悲哀全てがその一言に現われているよねえ…」

駄目だ。この二人じゃ、なかなかギャグにできなかった…。一応、最後にオチらしきものはつけときましたが(苦笑)。父子の関係なんて想像するしかないですが、結構書くのは楽しかったかな。

ヤナギの成人した年はネタになるようなことがたくさんありました。念願の娘…、おっと、まだこのことは秘密で。とりあえず、こんな形で持つことになろうとは思ってなかった、と言っておきましょうか。ふふふー(謎)。

アズール
「さ〜て、次の「フェン家の愉快な仲間達」では、ななななんと、久しぶりにおれの出番がいっぱいだ! 屈強な体をした強豪達を相手に、千切っては投げ、千切っては投げの大活躍! しかし、そこにいくつくまでに、彼は苦しい試練の数々を血と涙と汗とを滲ませながら乗り越えてきたのであった。そして、その闘いの最中に新たに確かめ合うおれと妻ミッキーとの愛の絆。ああ、ミッキー、愛してる…。いいえ、ソラ、私はあなたの何十倍も愛してるのよ…。ああ、ミッキー…。さあ、次回、『フェン家とジマ杯』、おれのファンの娘さん達には絶対に見逃せない! さあ、ビデオの予約をしてお待ち下さい!」
ファレーネ
「…えーっと。すみません、タイトル以外は嘘予告ですから…。次回もいつもの乗りでいつものメンバーが満遍なく出ると思います、ええ、きっと、多分、…恐らく…」

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