■第十話『閑話休題〜アヤメちゃん、異世界へ行く』

さて。
このプルト共和国にいるフェン家には6人の息子と、養子にきた一人の娘がいました。
しかし、これはいくつもの「もしも」によって幾重にも別れて生じた一つの世界の形でしかありません。
そこで、もう一つ、その世界と平行線を辿る時間軸を持った世界があったとしたら?

これは、養子の娘がその世界に紛れ込んでしまったお話です。

アヤメ
「あれれ…。わたし、どうしてこんなところにいるんだろ?(きょろきょろと周囲を見渡すとそこは港だった)あれえ、おかしいなあ。確かにわたし、神殿で祈りを捧げていて…。…まあ、いいか。そろそろ暗くなるみたいだし、家に帰ろうっと」



アヤメ
「ただいまー…(うーん、でも、すれ違う人に、微妙に違和感を覚えたのはどうしてなのかしら)」
アム
「あら、お帰りなさい」
アヤメ
(え…!?)
アム
「な、何? そんな驚いた顔をして、一体どうしたの、アヤメちゃん…?」
アヤメ
(な、何、この女の人…? も、もしかして、アムラームパパの…、ふ、不倫相手!? …あ、でも、それにしては、普通に受け答えを…。それに、なんかアムラームパパそっくりで…)
アム
「ええと、アヤメ、ちゃん?」
アヤメ
「は、はい!」
アム
「どうかしたの?」
アヤメ
「(落ち着け、落ち着くんだ、わたし)あ、あの…。ここってフェンさんのお宅ですよね?」
アム
「ええ。もちろん。なあに、なんだかよそよそしくなっちゃって」
アヤメ
「あ、あの…、えーっと、アムラームパパ…、にそっくりだけど。でも、女の人、ですよね…?」
アム
「アムラームパパ…? なあに、どなたのこと? もしかして、私のこと? でも、私はパパじゃなくてママよ。いつもあなたにはアムママって呼ばれていたんだけど」
アヤメ
(あ、『アムママ』!?!?!?)
アム
「ねえ、本当に大丈夫? 頭でも打ったのではない?」
アヤメ
「いえ、確かにショックで頭が打ったように痛くて…」
アム
「まあ! やっぱり。大変」
ファル
「なんだ。一体どうしたんだ、アム」
アム
「ああ、ファル。ええ、ちょっとアヤメちゃんが」
ファル
「ん〜、一体、どうした、アヤメ」
アヤメ
「…あの、もしかしなくても、ファレーネママ…?」
ファル
「は? ファレーネママ? 何言ってるんだ、アヤメ。こんな良い男である父親を捕まえて、ママはないだろう、ママは。俺はファルパパだぞ。…なんだ、本当にどうしたんだ、アヤメ」
アヤメ
(何、何なんだろう。これは。アムラームパパがアムママで、ファレーネママがファルパパ…? なんか、男女が入れ替わっているような…。まさか、他にも…)
アム
「アヤメちゃん、少し横になったほうがよくはない?」
アヤメ
「…いえ、大丈夫です。それよりも、確かめておきたいことがあるんだけど。あの、ヒスイさんとヤナギさんって…」
ファル
「娘達がどうかしたか?」
アヤメ
(ああああ、や、やっぱり、娘って…!汗汗)
ファル
「はっ!? ま、まさか、アヤメ。あの子達から、いじめられているのか!? そうか、そうなんだな!? 最近、おれがお前ばかりを可愛がっているから、それを妬んだ義姉達から苛められるとは…。ああ、まるで、さながらシ○デレラの如く…!」
アヤメ
「あああああ、ち、違う! 違う! 苛められてなんてないから!」
ファル
「いや、分からないぞ。あいつらのことだ…。いつ、どこかで、お前の気づかぬように仕掛けているかもしれぬ…」
アム
「あなた、またそんなくだらないことを言って…。はあ(ため息)」
ヤナギ
「…本当にバカ丸出しね」
ヒスイ
「父様…」
ヤナギ
「大体ね、妬むっていったい何? バカも休み休みに言うのね。そんなことあるわけないでしょう。私は父さんの鬱陶しい目がアヤメに向いてくれたお陰で清々したくらいだというのに。そのことで逆にアヤメに感謝したいくらいだわ。大体、父さんは過保護すぎなのよ。いいえ、既に過干渉の粋ね」
ヒスイ
「や、ヤナギちゃん、それは言い過ぎなんじゃ…」
ヤナギ
「ヒスイは黙ってて! そうよ。実は前から言おう言おうと思っていたのよ。お風呂で人のボディーブラシを勝手に使って! やめてやめてって何度も言ってるでしょう!?(凄い剣幕でファルに迫るヤナギ)」
ファル
「や、ヤナギ…(後ずさり)」
ヤナギ
「ほら、ヒスイも言いたいことがあるでしょ。いい機会だから、今のうちに言っておきなさい!」
ヒスイ
「…、言いたいってことって。私は別に…」
ヤナギ
「ほら!(ヒスイを前に押し出す)」
ヒスイ
「…、え、えと。と、父様、例えネタだとしても私達をそんなふうに言うだなんて、私、少し、傷つきました…。アヤメちゃんとは、いつも仲良くお話してるのに。ひどいです、父様…」
ファル
(ぐさっ)
ヤナギ
「ふん、変態親父」
ファル
(ぐさっ)
アム
「…まあ、半分は自業自得かしらねえ…(ふう)」
ファル
(いじいじいじ)
アヤメ
「あ、あ、あの、あの、えーっと…(て、展開についていけない…!)」
ヤナギ
「ほら、アヤメ。父さんなんて母さんに任せておけばいいわ。部屋へ戻るわよ」
アヤメ
「は、はい!?」
ヒスイ
「…えと、そういうことみたいだから。行きましょ、アヤメちゃん」
アヤメ
(あああああ、もう、何が何だか…!!(@△@; 誰かわたしに、説明を。説明をーー…!!)

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